東京地方裁判所 平成8年(ワ)15641号 判決 1997年12月26日
甲事件原告・乙事件被告 株式会社キャリアスタッフ
右代表者代表取締役 小野憲
右訴訟代理人弁護士 嶋田喜久雄
甲事件被告・乙事件原告 株式会社エフエム・アイ
右代表者代表取締役 松下孝夫
右訴訟代理人弁護士 羽柴駿
同 菊地幸夫
主文
一 甲事件について
甲事件原告の請求を棄却する。
二 乙事件について
1 乙事件被告は、乙事件原告に対し、四万〇六九四円及びこれに対する平成六年一二月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 乙事件原告のその余の請求を棄却する。
三 甲・乙両事件について
訴訟費用は、甲・乙両事件を通じて、これを三分し、その一を甲事件原告・乙事件被告の、その余を甲事件被告・乙事件原告の各負担とする。
四 この判決は、第二項1に限り、仮に執行することができる。
事実
(以下において、当事者の呼称は、甲事件原告・乙事件被告を「原告」、甲事件被告・乙事件原告を「被告」ということとする。)
第一当事者の申立て
一 原告(甲事件の請求)
被告は、原告に対し、五八万九三〇六円及びうち五七万二一四二円に対する平成六年一二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告(乙事件の請求)
原告は、被告に対し、一五一万六九四円及びこれに対する平成六年一二月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二当事者の主張(甲事件)
〔請求原因〕
一 原告は、労働者派遣法の定めるところにより労働大臣の許可を受け、労働者派遣を主たる業務とする会社である。
被告は、コンピューターソフトの開発等を主たる業務とする株式会社である。
二 原告と被告は、平成六年七月五日、原告が被告に対し労働者を派遣する契約を締結した。
三 原告は、右派遣契約に基づき、被告に対し、平成六年七月一一日から同年九月三〇日まで斉藤洋一を派遣した。
四 右派遣料は、次のとおりである。
1 平成六年七月一一日から同月三一日までの間について、四七万〇二二三円
(消費税は別に一万四一〇六円)
2 同年八月一日から八月三一日までの間について、六〇万二一六三円
(消費税は別に一万八〇六四円)
3 同年九月一日から九月三〇日までの間について、五七万二一四二円
(消費税は別に一万七一六四円)
五 被告は、右1及び2の派遣料の支払はしたものの、右3の派遣料の支払をしない。
六 支払日の約定は、当該月分を翌々月末日支払である。
七 よって、原告は、被告に対し、本件労働者派遣契約に基づき、右の派遣料五七万二一四二円及び消費税一万七一六四円の合計五八万九三〇六円及びうち五七万二一四二円に対する約定の支払期日の翌日である平成六年一二月一日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔請求原因に対する認否〕
請求原因一ないし六の事実はすべて認める。
〔相殺の抗弁〕
一 被告は、乙事件の請求原因で主張するように、原告に対し本件労働者派遣契約の原告の債務不履行に基づき二一〇万円の損害賠償請求権を取得した。
二 被告は、原告に対し、右損害賠償請求権と原告が甲事件で請求している派遣料五八万九三〇六円の債権とを対当額で相殺する(相殺の意思表示は平成八年一〇月一四日の第二回口頭弁論期日)。
第三当事者の主張(乙事件)
〔請求原因〕
一 被告は、原告との間で本件労働者派遣契約を締結し、同契約に基づいて、平成六年七月一一日から斉藤の派遣を受けた。
右派遣目的は、コンピューターソフトの開発である。斉藤が担当するソフトは、同年一〇月末に取引先に対し引渡しの予定であった。
二 原告から派遣された斉藤は、同年九月に入るとすぐに無断欠勤を重ね始め、無断欠勤日は同年九月中で延べ一〇日に及んだ。その無断欠勤の理由は、斉藤が多額の負債を負い、債権者からの追及により外出さえも自由にできなくなったことによるものであった。
三1 原告は、労働者派遣会社として派遣先に対し損害を与えるおそれがある者を派遣しないように注意する義務を負っており、原告が作成・頒布しているパンフレットにでも「派遣スタッフは、いずれも当社の厳しい評価や教育過程をクリアし、技術・知識はもちろんのこと、社会人としての自覚や仕事に対する責任感を併せもった真のスペシャリストばかりです。」(乙一三)と明言しており、派遣した労働者の「社会人としての責任感」の具備を保障している。
2 原告は、斉藤に給料の前借りを認めていた。給料の前借りをするような派遣の労働者については、原告は、その経済状態につき必要な調査し、派遣先での金銭トラブル等が発生しないように注意すべきであり、本件においても、斉藤の派遣を差し控えるか、又は、斉藤についての注意すべき情報を開示する等の措置を取れば、被告は斉藤の勤務不良による損害を被ることはなかった。
3 また、原告は、本件労働者派遣契約に基づき、原告がパンフレット等でその能力・人格等を保障した水準の労働者を派遣する債務を負い、斉藤はその債務に関する原告の履行補助者であり、斉藤が被告における勤務を怠ったことは、原告の債務の不履行となる。
四1 斉藤の担当していたコンピューターソフトの開発は、斉藤の無断欠勤とそれに引き続く出社拒否によって中断され、結局、斉藤は被告における勤務から離れるに至った。斉藤の開発中のソフトは、その内容が斉藤本人でなければ分からない部分が多く、被告が右ソフト開発を続行するためには、まず斉藤の仕掛かり部分についての解析から始めなければならず、取引先への納期に間に合わせるために、被告は、斉藤の代替要員を充てなければならなかった。それでも、被告は、納期内に完成し引き渡すことはできなかった。
2 このようにして、被告は、斉藤が通常どおり勤務していれば出捐することのなかった人件費を、斉藤が勤務放棄をしたことによって、負担せざるを得なくなった。その金額は、次のとおり、二一〇万円を下らない。
(一) 平成六年一一月半ばから、神山弓雄が斉藤の代替要員として被告のコンピューターソフト開発業務に携わった。
神山は、まず、斉藤の作成途中のプログラムについて、次の目的でその解析を始めた。
(1) プログラムをその後どのように作成するかの手掛かりを得ること
(2) 斉藤の作業の完成度及び内容を検証すること
(3) 斉藤が作成した部分で神山が使用できる部分があるか否かを検証すること
(二) その結果、神山と被告代表者は、斉藤のしたソフトウエアのプログラミングは、やり直しをすることとなった。
(1) コンピュータープログラムの作成は、プログラマーの個性が強く反映され、プログラミングの過程・結果の出し方等には、担当者によって相当の幅があり、斉藤の作業結果が残っていても、後任者にとって詳細を把握していない他人のプログラムの結果を発展させて行くことはできない。このため、被告は、原告から、平成六年九月末をもって斉藤の派遣契約を打ち切ると言われた際にも、斉藤との直接契約をせざるを得なかった。
(2) 他人の一部作成したプログラムを完成させた場合よりも、後任者の独自の技術力で開発させた方がプログラム開発後にされるソフトウエアのテスト等が、プログラマーが当該プログラム全体の詳細を把握できているために円滑に行うことができ、納品後のユーザーへのサポートも円滑に実施することができる。
(3) 斉藤の作業結果の出来はよくなく、そのまま斉藤の作業を発展させても、テスト段階で様々なバグの発生が予想された。
(三) 神山が作成したプログラムのテストは平成七年二月の後半ころに行っているが、このテストは、斉藤が作業を続行していたとしても、必要であったから、このテスト期間の神山に対する人件費である同年二月の半月分(七〇万四〇〇円の半額は三五万二〇〇円)は、損害額から控除される。
(四) そうすると、神山に対し支給した人件費のうち、次の部分が被告が被った損害となる。
平成六年一一月分 三五万二〇〇円
平成六年一二月分 七〇万四〇〇円
平成七年 一月分 七〇万四〇〇円
平成七年 二月分 三五万二〇〇円(半月分)
以上合計二一〇万一二〇〇円
五1 原告は、被告に対し、甲事件において、平成六年九月分の派遣料として五八万九三〇六円を請求しているので、被告は、右損害賠償請求権二一〇万円と原告の右派遣料五八万九三〇六円とを対当額で相殺し(相殺の意思表示は平成八年一〇月一四日の第二回口頭弁論期日)、残額一五一万〇六九四円の支払を求める。
2 被告は、右債権の請求については、平成六年一二月二七日到達の内容証明郵便をもって、支払の催告を行っている。
六 よって、被告は、原告に対し、本件労働者派遣契約に基づいて、その債務不履行に基づく損害賠償として、被告の受けた損害から原告の請求する派遣料を控除した残額一五一万六九四円及びこれに対する催告の到達した日の翌日である平成六年一二月二八日から支払済みにまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔請求原因に対する認否〕
一 請求原因一の事実は認める。ただし、斉藤担当のソフトが同年一〇月末に取引先に引渡し予定であったとの点は不知。
二 請求原因二の事実は不知。
三 請求原因三の事実のうち、一般論として原告が派遣先に対し損害を与えるおそれのある労働者を派遣しないように注意する義務があること、原告の発行するパンフレットに被告主張のような内容の文言が記載されていること、斉藤が給料の前借りをしたことは認め、その余の事実は否認する。
四 請求原因四の事実は不知又は否認する。
五 請求原因五2の事実は認める。
理由
第一甲事件の判断
一 請求原因一ないし六の事実は当事者間に争いがない。
右の争いのない事実によれば、原告は被告に対し本件労働者派遣契約に基づき平成六年九月一日から同月三〇日までの派遣料五七万二一四二円及び消費税一万七一六四円の合計五八万九三〇六円の支払を求める債権を取得したということができる。
二 被告は、原告の右債権に対し相殺の抗弁を主張し、被告の相殺の意思表示は裁判所に顕著な事実であるところ、右相殺の抗弁に対する判断は、乙事件の請求に対する判断と同一であるので、相殺の抗弁は乙事件において判断することとする。
第二乙事件の判断
一 次の事実は、当事者間に争いがないか、又は証拠によって認めることができる事実である(この場合は採用証拠を当該箇所の末尾に摘示した。)。
1 原告は、労働者派遣法の定めるところにより労働大臣の許可を受け、労働者派遣を主たる業務とする会社であり、被告は、コンピューターソフトの開発等を主たる業務とする会社である。
2 被告は、原告との間で、平成六年七月五日、労働者派遣契約を締結し、右契約に基づいて、平成六年七月一一日から斉藤の派遣を受けた。当初の派遣期間は、同年七月末までとされ、同年八月末日に更新されて同年九月末日までとされた。
しかしながら、被告が原告から右派遣を受けた目的は、取引先から注文を受けたコンピューターソフトの開発であり、被告は、斉藤が担当するソフトを同年一〇月末に取引先に引き渡すことを約束していたため、原告の担当者(板谷)に対し、右の契約締結前である同年六月末ころに最低三か月は同一人物にしてほしいと申し入れた。このため、被告は、原告から紹介された二名のうち、柴田清については期間が一か月の短期間という制約があったため、その制約のない斉藤を選択した。(被告代表者の供述)
なお、斉藤は、被告に対し派遣される約一年前に、原告のスタッフとして登録されていた。(被告代表者の供述)
3 原告から派遣された斉藤は、同年九月には無断欠勤をし始め、無断欠勤日は、八日、一四日、一五日、一六日、一九日、二〇日、二一日、二九日の八日間に及んだ。また、出社・退社の時刻は、被告の通常の勤務態勢に比べると、大幅に遅くなっていた。その無断欠勤の理由は、斉藤が多額の負債を負い、債権者から、追及されていたことなどが原因であると推測されるもので、一時的な病気などではなく、無断欠勤を正当付ける理由は何もなかった。
(甲三の3、被告代表者の供述。証人板谷の供述は信用することはできない。)
4 斉藤は、原告の担当者に対し、借金があり勤務が続けられそうもないことを理由に同年九月末をもって派遣契約を打ち切ってほしい旨を伝えてきた。原告の担当者は、同月二一日、被告代表者を同道のうえ、斉藤宅を訪問し、斉藤に出社を促したところ、斉藤は、翌二二日から出社したが、前述のとおり、その後も欠勤をしている。原告の担当者は、同月二七日、被告代表者に対し、「同月末日をもって派遣契約は打ち切りたい。斉藤の状況からみて、いままでの条件で斉藤について契約を更新することはできない。どうしても斉藤を必要とするのであれば、直接雇用の方向で検討してもらいたい。」との要望を伝えた。
(証人板谷、被告代表者の各供述、弁論の全趣旨)
5 被告は、斉藤の担当業務の納期も迫っていたことから、損害を少なくするため、斉藤との直接契約にすることを決断した(被告代表者)。原告との間の派遣契約が切れた同年一〇月一日以降、斉藤との間で雇用契約を締結し、同人を雇用した。
6 原告が作成・頒布しているパンフレットには、「派遣スタッフは、いずれも当社の厳しい評価や教育過程をクリアし、技術・知識はもちろんのこと、社会人としての自覚や仕事に対する責任感を併せもった真のスペシャリストばかりです。」「派遣サービスの登録者は、「技能」「知識」「教養」「人間性」を中心としたテストにより厳選され、独自のトレーニングで育成された、スペシャリストたちです。」(乙一三)と記載されている。
7 原告は、斉藤を被告に派遣する前の段階で、複数回にわたって、斉藤からの要求によって給料の前借りを認めたことがあった。(証人板谷の供述・甲四)
8 斉藤の担当していたコンピューターソフトの開発は、斉藤の無断欠勤によって中断され、結局、斉藤は被告における勤務から離れるに至った。斉藤の開発中のソフトは、その内容が斉藤本人でなければ分からない部分が多く、被告が右ソフト開発を続行するためには、まず斉藤の仕掛かり部分についての解析から始め、結局一から作り直した。(被告代表者の供述・乙一〇)
二1 前記事実によれば、本件労働者派遣契約は、確かに1か月ごとの更新となっているが、被告は、派遣依頼をするにあたって、原告の担当者に対しコンピューターソフトの開発であると説明しており、原告は、コンピューターソフトの開発をすることができる適当な技術者を派遣することを目的とする会社であり(乙一三ないし一五)、コンピューターソフトの開発が一か月ごとに交替する技術者によって行うことが困難であることは承知していた事柄であるはずであり、原告は被告に対し本件労働者派遣契約に基づいてコンピューターソフトの開発を行うことのできる技術者を相当期間にわたって派遣する債務があったものということができ、他方、被告は、コンピューターソフトの開発を業とする会社としてコンピューターソフトのような代替性の乏しい業務を派遣労働者によって行うことについては、十分な配慮とこれに基づく業務態勢をとるべきであったということができる。
被告代表者の供述によっても、斉藤のコンピューターソフトの技術者としての能力については、欲をいえばともかくとして、格別問題はなかったものと認められ、前記事実によれば、斉藤の勤務成績の不良は、多大な借財等による生活の乱れ、勤労意欲の喪失、一人前の社会人としての責任感の欠如に起因していたものと推察される。
2 労働者の派遣を受ける企業にとっては、派遣される労働者が、その私生活に乱れがあり、これがゆえに頻繁に職場放棄をするような責任感を欠如しているような労働者でないことは、その知識・経験・技術といった事柄以前の問題であり、最低限の条件である。特に、派遣を受ける企業は、当該労働者を短期間に即戦力として使用するため、自社の業務の内部に即時に入らせ、その執行を相当程度委ねる以上、信頼が大切であり、人間性・責任感に問題がないことは絶対的に必要な要件であるというべきである。
原告は、人間性や私生活にわたる事柄は労働者の私生活・プライバシーの問題として会社は容喙し得ないなどと主張するが、労働者の派遣に対する世間一般の理解と異なる見解であり、賛成することはできない。労働者の派遣を受ける企業の期待が過度の期待又は誤解であるというのであれば、その旨を契約条件で明らかにすべきであり、パンフレットや契約書にその旨の注意書きをすべきである。
3 そこで、原告が斉藤の右のような私生活に起因する問題を派遣業者として知り得たかについて検討するに、前記事実によれば、斉藤は以前に複数回にわたって給料の前借りをしたことがあるというのであるから、派遣業者としては、前借りの理由を子細に問い質し、借財の状況などについて解明すべきであり、そうすれば、斉藤のおかれた状況を多大な困難を伴うことなく知ることができたものということができる。使用者が自己の従業員が多重債務者かどうか、債権者から追及されて精神的に異常を来しているか否かなどを調べることは、右2に述べたように、会社として決して越権ではなく、許容されるべき事柄である。
4 そうすると、原告は、被告に対し、本件労働者派遣契約に基づいて問題のある斉藤という労働者を派遣したことによって被告が被った損害を賠償する責任があるものというべきである。
5 この点について、原告は、被告が平成六年一〇月一日以降は斉藤と直接雇用契約をしたことを理由に損害賠償義務はないと主張するが、前記事実によれば、コンピューターソフトの開発の性質上、被告は、本件労働者派遣契約の末日である同年九月末日までに斉藤の勤務不良によって既に損害を被っており、被告の斉藤との直接の雇用契約の締結は、その損害の回復減少のための一方法として行われたものであるから、原告の本件労働者派遣契約に基づく損害賠償債務を滅却させるものではない(証人板谷の供述によっても、被告が直接雇用に切り替えた際の話合いに損害賠償請求を放棄するといった言動は認められない。)。
三 そこで、被告の被った損害について検討する。
1 乙一ないし一二(枝番のあるものは枝番を含む。)、被告代表者の供述、弁論の全趣旨によれば、斉藤の一部作成したコンピューターソフトは使いものにならず、被告は、改めて、別途技術者の応援を求め、一から作直しをし、結局、被告の主張するように、合計二一〇万円の出費をし、同額の損害を被ったことを認めることができる。
2 しかしながら、被告が斉藤の勤務不良によって損害を受けたことについては、被告代表者の供述によれば、被告会社に技術者が被告代表者のほかに配置されておらず、コンピューターソフト開発の注文があると、これを人材派遣会社に技術者の派遣を依頼し、当該依頼者に任せ切りにし、その業務の執行について指導監督をほとんどしておらず、斉藤のケースも同様であったことが認められ、このため、斉藤の私生活の乱れについて、日常接触のより多い被告こそがいち早く発見すべきであったのに、発見できなかったことなどを考えると、斉藤の勤務不良による損害の発生には、被告は原告よりもはるかに大きく起因していたものというべきであり、被告の被った損害の全額の賠償を肯認するのは余りにも不公平であり、その三割に相当する六三万円をもって原告に対し損害賠償を請求し得るにすぎないものというべきである。
3 したがって、被告は、原告に対し、本件労働者派遣契約に債務不履行に基づき六三万円の損害賠償請求権を取得したものということができる。
第三結論
そうすると、原告の甲事件の請求は全額につき相殺によって消滅しているから、理由がないが、被告の乙事件の請求は、相殺によって残った四万〇六九四円及びこれに対する催告日の翌日である平成六年一二月二八日(当事者間に争いがない。)から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
(裁判官 塚原朋一)